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補足説明! ジャンル反復横跳びパーソン

歌舞伎文化の入門に。ただ刺激は強め。 舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』

2024/04/06 配信
演出: 蓬莱竜太
脚本: 源 孝志

 

血統が重視される歌舞伎界において一代で千両役者まで成り上がった役者・初代中村仲蔵の半生を、ホリプロステージが豪勢に舞台化。中村仲蔵の人物・逸話に関する事前知識は神田伯山先生の講談YouTubeで観たことがある程度。歌舞伎の知識はほぼゼロ。ミュージカル、海外戯曲といった西欧の色が濃い商業演劇を偏狭的に求める自分は恥ずかしながら歌舞伎をちゃんと観たことは一度もなく、生で観た歌舞伎は何かと問われたらもうJCSのジャポネスクしか選択肢がない。でも歌舞伎って面白そうだしためになりそうだし勉強したいと思いながら、なかなか手が出ない。その最初のハードルをいい感じに緩和してくれそうな作品だと思ったし、実際その通りだった。

なんせ、お話を読み解くのに必要な情報はすべて舞台上で説明してくれるのだ。池田成志演じるコン太夫という超便利な「第三の壁を気軽に越える人物」が配置されており、物語のクライマックスとなる『仮名手本忠臣蔵』五段目の上演前にはその作品解説を10分くらい懇切丁寧にしてくれた。物語のあらまし、五段目前後の流れ、斧定九郎がいかに取るに足らない役か、など......

 

前回観た『カム フロム アウェイ』(これもホリプロだ)は、12人で100人を暗転なしで演じ切る、そのために演じながら次々と椅子や衣装を入れ替えて緻密なオペレーションを達成する作品だったので、『中村仲蔵』のひたすら身一つで真っ直ぐエネルギーを爆発させる芝居は実家のような安心感だった。

 

"血がない役者"である仲蔵。その後ろ盾は......まぁあるにはあるけど心許ない。自分からグイグイ行かないと何もチャンスを掴めないので、あらゆる起点は仲蔵から始めないといけない。その点、藤原竜也がもう完璧で、全てを捨てられるほどの芝居バカという設定.....設定というか、まさに舞台上で"そのように"生きてる。配信映像のフォーカスもすごくて、汗も、鼻水も、唾も、顔中からあらゆる液体が滝のように流れるさまをドアップで映し出す。その姿の前には如何なる雑念も洗い流されてしまう。

ひとつ大きな注意喚起として、仲蔵に対する性暴力やいじめのシーンが結構ガッツリとことん痛々しく描かれる。藤原竜也がまたすごい形相でそれを受けるので良くも悪くも目を背けることも難しいので、苦手な方は本当に気をつけて......

 

「ただ純粋にこれをしたい」という夢が、生まれ持った属性をあげつらわれ阻害され志半ばで潰えていく。本当に、考えるだけで心がきゅっとなるくらい残酷なことで、残念ながら今もそこかしこで起こっている。伯山先生も「『中村仲蔵』は現代人に響く」というコメントをこの舞台に残したように、講談のなかでも『中村仲蔵』の人気はずば抜けてるイメージがある(それこそぼくでも聴いたことがあるくらいには)。少なくとも「仲蔵の生き様を胸に私も現で頑張ろう」という期待を抱かせていることが無関係ではない気がする。それがぼくにとって勇気なのか呪いなのかは、今の自分にはまだわからないけども。